プロフィール
1987年、東京工業大学工学部電気・電子工学科卒業。1992年、同大学大学院理工学研究科電気・電子工学専攻博士課程修了。千葉大学工学部助手、東京工業大学理工学国際交流センター助教授、同大学大学院理工学研究科国際開発工学専攻教授、環境・社会理工学院学院長などを経て、2024年より東京科学大学執行役副学長(国際担当)を務める。無線通信、電波伝搬測定、電磁界シミュレーション、ICTと国際開発などを専門とする。
KDDI財団の審査委員として助成・表彰事業の候補者を評価していただいている、東京科学大学 執行役副学長を務める高田 潤一教授に、ご自身の研究の内容やKDDI財団の助成・表彰事業への思いや期待などをお話しいただきました。
電波はどう伝わるのか。
実際に「測る」ことで確かめる
――先生の研究されている分野は、どのようなことでしょうか?
ずっと研究してきたのは、携帯電話なども含めて、電波が送信された場所から空間を通って受信する場所まで、どのように伝わっていくかという「電波伝搬」についてです。
通信のネットワークをつくるには、まず、どのような場所でシステムを使うのかという「シナリオ」が必要です。しかし、その環境で電波がどのように振る舞うかがわからなければ、きちんと通信できるシステムが設計できません。
そのため、その電波が送信され、途中に障害物があるとどのような影響が起こるのか、どのくらいの距離まで届くのかなど、電波が伝わる中でどのような事象が起きているかを計測して調べます。アイデアというよりも、真実を見つけるような気持ちで研究を続けています。
地道な作業も多いですが、通信できるしくみを設計し、標準化していくプロセスの入口に欠かせない、大切な研究です。
――コンピューターでもかなり正確に予測できるように思いますが、やはり実測が欠かせないのですね?
実は、電波伝搬のシミュレーションを正確に行うのは意外と難しいのです。
電波は非常に小さな「波」ですが、その波長に対して非常に大きな空間を扱わなければなりません。しかも、現実の環境をすべて正確にモデル化することもできません。ですから、シミュレーションである程度の目星をつけても、最後は実際に測って確かめる。電波伝搬の研究では、「測る」ということが今でも大変重要になるのです。
――研究成果は、私たちの生活にもつながっているのでしょうか。
一つは、スマートフォンや生活全般のIoTなど、より安定した通信を実現していくための基礎になります。
また、この研究は、電波の有効利用にも生かされます。電波は、テレビのチャンネルと同じように限りがあるものです。同じ場所で同じ周波数を複数の人が使えば干渉が起きます。一方で、ある場所で使われていても、別の場所では使われていない周波数もあります。干渉しない場所であれば、同じ周波数も使える可能性があります。
私は20年ほど前から、電波伝搬研究の一つの出口として、こうした周波数を有効利用する研究にも関わってきました。周波数共用を前提にした通信システムが広がれば、より多くのデータを送ったり、通信を切れにくくしたりできるかもしれません。
国際協力で気づいた、
「ニーズ」から考えるということ
――もう一つ、高田先生は長年国際的な研究交流に取り組んでおられます。
最初から国際交流をしようと思っていたわけではないんです。千葉大学にいたとき、東京工業大学時代の恩師から声をかけていただき、入ってみたらそこが国際交流センターだったというのがきっかけです。
私は東南アジアの大学との研究交流を担当することになりました。当時は、タイ、インドネシア、フィリピンなどの大学で、若い先生を育て、研究活動を活発にしていこうという時代でした。
各国の若い教員の受け入れをお願いしたり、現地の大学で教えてもらえるようお願いしたりしましたが、なかなかうまくいかない。それなら、まず、自分が行けばいいと思い、タイの大学へ行くことにしたのです。
タイの大学では、たまたま私の論文を読んで、その内容をもとにアンテナをつくっている研究者に出会いました。そこから共同研究が始まり、10年ほど続きました。
その後、活動はラオスやモンゴル、カンボジアなどにも広がっていきました。
――モンゴルでは、教員研修にも携わったそうですね。
初めてモンゴルを訪れたのは、2004年のことです。モンゴルは、かつてソ連の強い影響下にありました。ソ連の崩壊後はインフラ整備が行き届かず、外気温がマイナス50℃にもなる厳しい寒さの中、子どもたちの暮らす寮の窓ガラスは割れたままになっているような状況でした。
そのような状況下で、先生たちの知識も、新体制に合わせてアップデートしていく必要があり、いわゆる教員研修を行うことになりました。モンゴルは国土が非常に広いため、先生たちを集めて研修するのが大変です。
当初は、研修する側が車で各地へ出向く「モバイルトレーニング」が行われていましたが、「遠隔でできないか」という現地のニーズがあり、その方法を一緒に考えることも仕事の一つになりました。
活動は形を変えながら20年ほど続き、最後には、全国の教員を対象にした研修にまで広がりました。その間にも情報通信技術はどんどん変わっていきます。だからこそ、単に自分たちの技術を持っていくのではなく「今なら何ができるのか」を現地の人たちと一緒に考える。 そういうやり方をしてきたのです。
研究は「シーズ」、
国際協力は「ニーズ」から
――無線通信の研究と国際交流では、取り組み方もかなり違いますね。
無線の研究は、基本的には「シーズベース」なんです。「自分たちはこれが得意だから、これをやる」というところから始まる。もちろんニーズもありますが、研究者が持っている技術やアイデアが起点になります。
一方、国際交流は「ニーズベース」にならざるを得ません。シーズベースで進めると、プロジェクトが動いている間はいいのですが、プロジェクトが終わったら根づきません。そのため、まず現地に何が必要なのかを考えて、そこから動かしていく。なかなか研究にはつながりませんが、それはそれでよかったと思っています。
――若い人たちにも、海外へ出てほしいと思われますか?
特にアジアには、ぜひ行ってほしいと思っています。なかでもカンボジアやラオスに行くと、現地の学生たちの強い「熱」を感じます。学ぶことにとても貪欲です。
私自身も、海外へ行って何かを教えるというより、受ける刺激のほうが大きかったかもしれません。だから「行くだけ得」だと思っています。
――今後、取り組んでいきたいことなどはありますか?
電波伝搬については、これまで自分が積み重ねてきた研究を、きちんとまとめ、集大成にしたいという気持ちですね。国際交流については、これまで築いてきたアジアとのつながりを、次の世代へどう引き継ぐかを考えています。今はインターネットでいろいろな情報を見ることができますが、それだけではわからないこともあります。実際に行って、自分の目で見ることは大切だと思います。
――KDDI財団の助成・表彰事業の審査委員をされています。審査の際に心掛けていることはありますか?
助成や表彰にはそれぞれ目的があります。たとえば社会活動への支援なら、やはり「ニーズ」が大切だと思います。「自分たちがこの技術を持っているから、どこか使えるところを探そう」というやり方では、なかなかうまくいきません。
一方、研究については、皆さん素晴らしい技術を提案してきます。そのなかで私が見るのは、どういう意気込みでその研究をやろうとしているのかという熱量です。
また、私がもう一つ大切だと思っているのは、「その先にある出口を意識しているか」です。純粋な学術的好奇心から生まれる研究も、もちろん重要です。大きな発見は、そこから生まれることもあります。ただ、KDDI財団が支援するのであれば、その先に「通信や社会をどうよくしていくのか」までを見据えた研究がいいと思います。
出口を意識しながら、「これをやりたい」という熱を持って取り組む研究に、これからもたくさん出会いたいですね。
――最後に、KDDI財団の活動に期待することを教えてください。
審査をしていると、「こんなすごい人が、こんなところにいるのか」と毎年驚かされます。自分の知らない研究に出会えることは、私自身にとっても勉強になっています。
また、個人的には、NGOなどの社会活動への支援は、ぜひ続けてほしいと思っています。先端的な研究を支援するだけではなく、その出口にある社会の活動まで支えている。それはKDDI財団の一つの特徴だと思います。