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る余地が生まれる。ネットフリックスのように、将来に先鞭をつけ、いち早く取り組んだものが勝者となる。まずは5Gの土俵にあがることが重要だ。通信業界は勢力図の激変を経てきた 。ノーテルやルーセントなどといった伝統的大企業はなくなってしまった 。スマートフォン時代の前に隆盛を誇ったブラックベリーやノキアの端末も駆逐されてしまった。5Gにおいても、産業構造の激変が起こるかもしれない 。ただし、悩ましいのは、どのように変わっていくかは予測できないことだ。例えば、洗濯機の登場で、家事労働の負担が大幅に減ることは明白だったが、洗濯機が社会に与えた影響はこれにとどまらなかった 。衛生観念が大きく変わり、毎日洗濯するようになって、衣類の需要が一気に増えたことも、社会にはきわめて大きな影響を与えた 。今から振り返れば当たり前のことであるが、「洗濯機で衛生観念が変わる/衣類の需要が増える」ことに気づいていた人は誰もいなかったろう。また、米ウーバー・テクノロジーズが設立されたのは2009年である。スマートフォンがなければ成立しない配車サービスは4Gの落とし子といっても良いが、4Gの開発時点では誰も配車サービスの登場を予測できなかった。今や、ウーバーやリフトなどの配車サービスで、ニューヨークの「メダリオン(正規のタクシー業務を行うための営業権)」の価格が暴落する事態になっている。デジタルは,経済の構造を残酷なまでに変えていく。5Gがこの動きを加速する。4Gまでは、通信事業者がサービスを考え、顧客に電話、メール、インターネット接続などのサービスを提供していた 。5Gでは全ての産業領域がサービス対象になるため、通信事業者でさえどのようなサービスを提供すれば良いのか把握できない。また、5Gでは仮想化やネットワークスライシングに加え、エッジコンピューティングまで利用できるようになり、利用者の要求に応じた個別化サービスを実現できるようになる 。「遠隔制御向けの高信頼サービス」「金融トレーディング向け低遅延サービス」「スマートシティ向けIoTサービス」などのきめ細かいサービスを提供できる。「なんでもできる」5Gだからこそ、活用の仕方が難しくなる。必要なユーザーに、必要な期間、必要なサービスを提供する「オンデマンドサービス」も可能だ。5Gネットワーク内にエッジコンピューティング向けのエッジサーバーも配置されているため、人工知能を活用したサービスも提供できる。したがって、5G上でのビジネス開発は、全てのデータを画一的に転送していたインターネット上でのそれとは様相がかなり異なってくる 。インターネットでは、単にデータを流すだけで良かったのに対し、5Gでは「5Gの機能を使いこなす」ことが必要となる。5Gでは、コンテンツプロバイダがサービス要件を通信事業者に伝え、個別化されたサービスを通信事業者に提供してもらう形態が登場するかもしれない 。このような世界が構築されると、消費者は5Gに対してお金を支払うのではなく、5Gをも含んだコンテンツサービスにお金を支払うようになる 。コンテンツプロバイダにとっては、どのように5Gを自らのサービスに組み込んでいくかが競争優位実現の鍵となるため、ネットワークの仕組みを切り離して考えることができなくなる。5Gのサービスは通信事業者が与えてくれるものではない 。自らが5Gで何をするのかを考え、必要に応じて通信事業者などを動かしながら、創り上げていかなければいけない。インターネットという通信インフラを快適に使えるようになったからこそ、SNSや映像配信、電子商取引などのサービスが花開いた。通信技術の進展がこれらを支えている。通信技術はあくまでも裏方だ。5Gも裏方の技術である。パーソナルコンピュータの父ともいわれるアラン・ケイの言葉「未来は予測するものではない 。自らが創るものだ」の通り、我々一人一人が5Gで何をするのかを考え続けることが重要だ。6KDDI Foundation Vol.11

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