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あらゆる産業の基盤となり、産業のデジタル化や効率化をもたらすと期待されている5Gの関連銘柄が株式市場で元気である 。基地局、基地局までの光回線、ネットワーク装置、端末、部品など、5Gに直接関係する分野だけでも膨大な市場であり、日本経済全体の景気を左右するくらいの特需が起こる。 しかしながら、「5Gならではのサービスがない。4Gの品質で十分なものも多い。5Gを使う必要性を感じない」「いろいろな実証実験をみても、ビジネスになるようなものが見当たらず、投資することは難しい」「期待していたけど、結局何をやればわからず、静観せざるを得ない」などの声も多く聞かれる。5Gに対して期待と落胆の両方があるのは、時間感覚の違いのためだ 。現時点では5Gならではというキラーサービスが明確になっていないため、5Gが世界や産業を激変させるほどの強烈なインパクトを有すると実感することは難しい 。しかし、少し先の将来を見据えると、5Gがデジタル変革を後押しして世界を一変させてしまう可能性が高い。通信のインフラとはそのようなものだと認識し、誰よりも先に深く将来を洞察し、企業の競争力を高めることにつなげたい。5Gに向き合うにあたって必須になるのが、5Gで新しいビジネスの余地が生まれるという点を認識し、5Gの土俵に上がることである。新しい技術が出るたびに、こんなものは必要ない、金を払ってまで使わないなどの懐疑的な声が上がる。5Gも同じで、4Gでも十分だ、5Gならではのサービスがない、5Gはビジネスにならない、などの話が出る。しかし、5Gは通信インフラである。様々なビジネスは通信インフラの上で花開く 。通信インフラが高度化されると、必ず新しいビジネスが出てくる。2Gのときにはiモードが登場した。3Gのときにはスマートフォンが登場した。4Gでは動画広告やシェアリングサービスが当たり前になった。すなわち、「5Gで何ができるのか」ではなく「5Gで何をするのか」という意識で5Gに向き合うことだ。「5Gによって新しいビジネスの余地が必ず生まれる。その流れに乗ってビジネスを考え出していかなければいけない」と5Gを見据えることが大切である。今では映像ストリーミング配信事業会社として有名な米ネットフリックスは2007年に勝負にでた 。コアビジネスを,ビデオレンタルサービスからビデオ・オン・デマンド方式によるストリーミング配信サービスに移行したのだ。2007年当時、ネットフリックスがストリーミング配信で今のような成功を収めるとは、ほとんどの人が予想していなかった。当時のインターネットの速度がきわめて遅かったためである。コンテンツ業界がネットフリックスに与えた配信権が破格の安さであったことも、コンテンツ業界がネットフリックスを過小評価していたことを裏付ける。ネットフリックスの成功の秘訣は、通信速度が速くなったらどのような世界になるのか、通信速度が速い世界では消費者はどのようなサービスを望むのかに関して、誰よりも先に深く洞察していたことにある。5Gも同じだ。4Gで実現できるものでも、5Gでさらに花開くかもしれない。中国では露天の不法営業を5Gで監視するサービスが始まっているが、このようなサービスは4Gでも実現できる 。だが、5Gで監視を行うことで大量の映像を遅延なく取得でき、新しい切り口のビジネスが生まれるかもしれない。「5Gならでは」のサービスが身近にあれば良いが、なかったとしたら、「4Gでもできるものでも良い」というスタンスで5Gに取り組んでも問題ない。通信インフラはますます高度化していく。5G自体も進化していく。スタンドアローン型も近い将来登場する。基地局の設置場所も増える 。新たな周波数も割り当てられる。5Gの機能も順次向上していく。WiFi、LPWAなど5Gの代替となる無線方式も進化する 。その中で新しいビジネスが生まれ東京大学大学院 工学系研究科 工学博士KDDI財団 審査委員長森川博之もりかわ ひろゆき5Gにどのように向き合えば良いか5KDDI Foundation Vol.11エッセイESSAY

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