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19KDDI Foundation Vol.112020年1月11日、私たちファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)は、韓国のメディア関係者2名を東京に招き、「韓国で広がるファクトチェック~日韓協力は可能か」と題したセミナーを開催しました。日本の一歩も二歩も先を行く同国の実践は示唆と刺激に富み、メディア関係者や市民約70名の参加者から質問が相次ぎ、4時間に及んだ会は閉幕となりました。このセミナーの模様を伝えた記事もよく読まれているようです※1。このセミナーで得られた知見も交えて、今の日本社会にファクトチェックという活動が果たせる役割について、ご紹介したいと思います。世界に広がるファクトチェック 遅れをとる日本「ファクトチェック」という言葉がメディアなどで使われる機会も徐々に増えてきましたが、日本においてはまだ新しい概念です。FIJでは「真偽検証」という訳語をあて、次のように定義しています。「社会に広がっている情報・ニュースや言説が事実に基づいているかどうかを調べ、そのプロセスを記事化して、正確な情報を人々と共有する営み」※2報道やメディアの現場で行われている「事実確認」とは似て非なるものです。近年、海外で広まっているファクトチェックとは、公人の発言やメディアの記事、SNSで広く伝播した様々な言説・情報を第三者が調査し、それらに含まれる誤りや誤解を招きかねない内容について検証記事として発表する活動です。よく「フェイクニュースの対抗手段」と形容されることもありますが、何が事実であり、事実でないかを、証拠の明示など厳密な手続きによって検証することに特色があります。こうしたファクトチェック活動を恒常的に行っている団体は、世界各地に少なくとも225媒体あると報告されています。※3残念ながら、日本ではこうした活動を専門的に行う媒体がほとんどありませんでしたが、こうした活動の必要性がようやく認識されつつあります。※4民主主義社会において正確な情報が非常に重要であることは言うまでもありません。事実が広範に共有されなければ建設的な議論は期待できず、誤解や偏見が野放しになると社会の「分断」が深まりかねません。事実を共有する営みであるファクトチェックは地道な活動ですが、その成果がより多くの人々に届くようにデザインされた仕組みを伴えば、人々が誤情報に惑わされにくい環境を生み出し、「分断」の深刻化を防ぐための有効な手立てになると私たちは考えています。ファクトチェックの答えも一つとは限らないファクトチェックというと、どこか権威をもった団体が何が事実かを決定し、人々に押し付けるイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、それは大いなる誤解です。韓国の取り組みから学べることは、数多くの主体がファクトチェックを実践することの重要さです。ファクトチェックの担い手を広げ、誤情報に惑わされにくい社会を目指すNPO法人 ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)理事 兼 事務局長/弁護士楊井人文やない ひとふみセミナーの模様助成対象者からの報告社会的・文化的諸活動助成

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