はじめにKDDI財団は2016年、ICTの緊急医療分野での利活用について、タイ救急医療庁(NIEM)、 タイ国立科学技術開発庁(NSTDA)、タイ電話通信公社(TOT)の各政府機関と、共同調査研究を行いました。その調査研究に基づき、NIEMは、同国ウボンラチャタニー県を緊急医療ICTパイロット地域に指定し、救急車の出場システムの導入を推進し、その試験運用を開始しました。システム導入後、情報伝達の一部が自動化され、救助機関と救急病院間での情報伝達が正確かつ迅速となり、運用面が向上しました。背景タイ王国では、交通事故による外傷原因で、年間6万人が死亡しています。死亡者数の削減に向けて、NIEMは、外傷者の緊急搬送での出場や搬送中の情報伝達の手順を見直し、手作業で行っている情報伝達の電子化を推進しています。その中で、我が国でも検討している、EHR(Electronic Health Record)の標準化とその活用方法、PHR (Personal Health Record)の共有利用など、救助機関と救急病院での相互運用に関わる課題に着目し、改善を模索しています。特に同国では、医療情報システムが、個々の病院グループで独自仕様のもとに開発されているため、標準化で必要となる、各種マスターデータの種類、利用コード、システム間でのデータ交換規約、さらに業務フローなどの標準化が行われておらず、結果、救急医療機関相互での情報連携が円滑に行えない状況が問題でした。2019年の取り組みタイでの現地調査活動2019年3月、KDDI財団は、タイにてMESS(緊急医療サービスシステム)のための標準化について、2016年に続き、NIEMの調査研究プロジェクトに参加しました。 本プロジェクトは、総務省が支援するアジア太平洋電気通信共同体(APT)の国際協力活動プロジェクトへ共同で応募し採択されたプロジェクトです。この調査研究プロジェクトでは、タイ版緊急医療情報システムのモデル化や運用プロセスにかかわる標準化、さらに、バイタルサイン(生存を示す兆候)情報の利用向上のためのデバイスインターフェースの標準化にも取り組みます。KDDI財団はICT活用分野の観点から、日本が推進するICTを活用した救急活動を、ケーススタディーの対象とすることを助言しました。日本での調査活動タイ王国研究チーム(NINM、NSTDA、TOT)が、日本でのICT救急医療活動と関連医療機器の実査のため2019年11月、来日しました。日本の政策・施策を制定する総務省消防庁をはじめ、ICT医療機器を活用している横浜市消防局、医療デバイスメーカーを訪問し、活発な情報交換を行いました。NIEMは、今回の実査で得た知見を参考にして、標準化作業を行い、現在もパイロット運用中である、ウボンラチャタニー県で、実証試験を推進してく予定です。緊急医療センター(上:システム導入前、下:システム導入後)総務省にてタイの救急車タイでの会議風景12KDDI Foundation Vol.11緊急医療ICT分野の共同研究タイ
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